鏡裕之さんが、ご自分のブログで、エロゲのボリューム(主にシナリオ)について書いてらっしゃるんですね。
どうやら、タイミングが良い話題だったようで。
ライターとしての鏡さんのご意見は解るんですが、販売・営業にも携わった側からすると、じゃあシナリオ量を減らそうぜ、とは簡単に言えないのも本音です。商品競争力が落ちてさらに売れなくなる可能性が高いですからねぇ・・・
話が長くなるので、僕の意見として、先に結論だけ言ってしまえば
「作品ボリュームに応じて価格を自由に変えてしまおう。適正な質と適正なボリュームと適正な価格で、バランスのいい商品を顧客へ提供しよう」
という事になります。何も新味の無い意見ですけど、商いの基本だと思うんですよ。
そして、口で言うだけじゃなく自分でやってみよう、という事で試みたのが、「15歳」という事になるワケです。
さて、話を戻して―――
前回、「エロゲの商品力を落としたのは、テキスト量の肥大化が招いた事なのではないか」
という所まで意見を述べました。
お客さんが望む形の商品内容と、制作側の作品内容がズレてしまって、顧客離れが進んでいった・・・という事です。
エロゲのテキスト量については、こちらに興味深い資料があります。
「萌え理論Magazine - 数字で見るこの界隈:その2:エロゲのテキスト量」
ここに、過去10年のエロゲの代表的な「ドラマ重視作品」のテキスト量が掲載されています。
なんだか、自分が制作に関わったタイトルも幾つか載っていて、妙にくすぐったい気分^_^;。
自分が解る範囲で言えば、この数値は概ね正確で、信頼できる数字です。(ただし、この数値は純粋に画面に表示されるテキスト部分です。実際のシナリオにはこれに演出スクリプトや注釈や諸々が書き込まれていますので、最終稿はこの2〜3倍近くになっています)
おや、これで見ると「Kanon」はテキスト量は絞られているんですね…これは意外でした、かなりのボリュームだったと体感していたので。
この数字だけで見ると、10年前と現在で変わりないように見えます。
が、タイトル数から見て、この統計は全体を表すというより、その時代の代表的作品のシナリオ量、と取るべきでしょう。
ここまできちんとした数値を出せませんが、僕が1999年にゲームメーカーに勤め始めた頃、8800円のアダルトゲームで、1作品の平均的なシナリオ量は700〜900KBでした。制作管理をしていたので、その辺の数字は結構覚えています。(※ただし、ゲームデザインによってはテキスト量が増えたりします。調教シミュレーションタイプのゲームだと、平均して3MB近くのテキスト量が必要になります。ただし同一テキスト部分が増えるので、書く量はそれほど増えません。)
年末商戦とかで力を入れた商品の場合で、その倍(1.2〜1.7MB)で、2MBを超えるシナリオは、スケジュール上ありえませんでした。
スケジュール上、というのは、シナリオライターが一人で2〜3ヶ月で書ける量として、だいたい700〜900KBが目安だからです(普通のライターが1日に書ける量は約10KBです)。制作予算から言って、それ以上要求するとシナリオライターが生活できません(^_^;
勤めていた会社はアダルトゲームメーカーの中でも中堅どころで、業界の平均値から大きく外れてはいなかった筈です。
しかし、独立する直前の2005年に、そのメーカーから出していた商品は、通常で1.2〜1.7MBのシナリオ量、年末商戦用の商品の場合は3MB超えも珍しくない状態でした。
テキストは、6年で、約2倍。
しかし、一方で、グラフィック枚数は6年間で殆ど変化していません(だいたい、1作品あたり平均すると、80〜90枚)。
つまり、どうなるかと言うと―――
『冗長で、中身スカスカ』
という商品が数多く市場に出回るようになった、という事です(ちょっと乱暴なまとめですが)。
少なくないメーカーで、エロシーンが1枚の絵でグラフィックが変化しないまま、だらだら〜っとした描写になってしまったり、エロとは無関係な無駄でかったるいグダグダした会話が延々と続いた後、ようやくエロシーンにありつける・・・という、なんとなく中途半端なエロゲが増えてきました。
こんなんじゃあ、パンツ下げたままスタンバっても、起たないうちに風邪ひきますゼ旦那。
市場にこんな商品が増えてきちゃあ、実用性を重んじるお客は離れていきますよね。
しかし、なんでこんな事態になっちゃったのでしょう?
―――というところで、またこの話題引っ張ります・・・

あ、ちなみに、僕が勤めていたエロゲ会社はエロ重視で押していったメーカーなので、シナリオ量が増えてもエロ度が落ちないように、周辺コンテンツ(ボイスや演出)を相当テコ入れしていました。お陰で、スケジュールのやり繰りが死にそうでしたよ・・・でも、その効果があったのか、あまり売り上げが落ちなかったですね。今でも、エロ方面では強いメーカーです。
また、シナリオが増えて相対的にグラフィックが少なくなっても、演出面に力を入れれば十分カバーできます。
僕が制作進行として関わったタイトルの中でも、メインのイベントグラフィックが少ない物は数多くありましたが、気合が入ったディレクターが手がけたタイトルは、画面効果や音楽、効果音、立ちキャラや小コマグラフィックなどを駆使しており(その分演出にスケジュールがとられたけどw)、結果的に高い評価と十分な売り上げを得ています。
結局、どこにどれだけ手間と思い入れを入れるかなんですよね・・・あ、結論言っちゃったΣ(゚ロ゚)
自分が関わっているのは小説なのですが、ゲーム業界との
相違が割とくっきり出ていて興味深かったです。
ファイルサイズで作品の量を示すところなど、とても面白いと感じます。小説の方では、大抵原稿用紙枚数か文庫本形式で示すので。
ゲームと小説の大きな違いは、次の二点ではないかと考えています。(当然他にも一杯あるとは思いますが)。
一つが「編集者の有無」。もう一つが、やはり「分量による値段の違い」だと思います。
小説は紙媒体で発表しますので、枚数が増えれば当然値段も上がるわけです。
ですから、編集者は作家に対してなるべく削るよう指示を出してきますし、つまらない部分に関しても容赦なく注文をつけてきます。
その結果、枚数が抑えられ、作品の「間延び」や「テンポの悪さ」が解消されるのだと思います。
ゲーム業界では、そういった「編集者」的な人が介入してくることがあまり無いのではないでしょうか?
誰も「削れ」と言ってこないため、ついつい冗漫な部分が放置されてしまうのではないでしょうか?
関戸様の、「適正な量を適正な値段で」というお考えには、とても共感致します。
僕の経験からすると社内で処理する場合。
多くはライター兼企画の場合が多く。
原画やCG、プログラムといった部分のクォリティや品質チェック等をライター兼企画者(立場上雑誌で言うところの編集も兼ねる)が携わっている場合が多いので、彼らのサジ加減一つという場合が多いです。
各チーフが居て、それに対してライターがダメだ市をすることはありますが、その逆はあまり聞いた事がありません。
また、ライターによりますが書きかけのテキストを周囲に公開し意見や感想、修正点を求める例も多くは無いようです。
ほとんどの作品がAVDという実情を考えると。良くも悪くも彼らの才能が作品の出来に左右する場面が多々あります。
逆に外注を使う場合はコチラからどのようなシーンを構築して欲しいか。そのシーン容量をどの程度で押さえるか。いつ納品して欲しいかをディレクションして、上がってきたものをチェックし、レベルに無い場合はダメ出しをします。
特に容量に関しては声(アフレコ期間とそれに関わる経費)に大きく影響するので、シビアに見て居ます。
ゲームの場合は多くの人員。予算や期間が絡むので、そういう意味ではタイトに物作りをしてますね。
逆に、少人数で自分の納得行くまで作品性、娯楽性、実用性を追及できる同人の方が新しい技術を導入したり。CGレベルを高く保てたりするわけで実際に市場の商品と同等レベル。或いはそれ以上の物もあり。
その現象は歯がゆくもあります。
余談ですが、CGなど複数人の絡む業種の場合。
ほんの一部のメーカーを除いて、一般的には自転車操業的な開発期間(グラフィッカは常に何かをさせていないといけない。と思うメーカーが多く開発と開発の合間もタイト)であり、次に新しい技術・表現を試し全体の底上げをした上で、今まで通りの枚数を仕上げて行く事は難しくもあります。
作品に対する対価としての話とは矛盾するかもしれませんが。
平均レベル(ある程度下のレベルに合わせ、チーフが商品レベルに引き上げる)で作品レベルを安定させるため、大きな進化が見られないと言った現象も起きます。
グラフィッカに限らず。スタッフ各々ではレベルが高くても作品として統一されていないと意味が無いため。
○○メーカー塗り。システムの基本仕様が毎回同じ。といったメーカー毎のフォーマットに当てはめて安定を優先しまうんですね。
作品を通して、業界だけでなく。
ユーザやスタッフに対してもチャレンジするメーカーは減ったように思います。
(単に新規メーカーが続々増えるので水増しされた分減ったように感じるだけかもしれません)
長文失礼しました。
なぜか2重カキコになりますね。
2重カキコの部分は削除しておきました。
kさんご指摘の「編集者の有無」と「分量による値段の違い」というのは、納得できるご意見です。制作側からすると、特に、前者の役割がゲーム制作の場合殆ど働かない点は、大きいでしょう。
ボブマスターさんが書いているように、ゲーム制作の現場でもディレクターが容量や内容をシビアにチェックする、という機能を担っているのですが、それは「編集者」という立場ではなく「作者」の一人として、ですから、ちょっと意味合いが変わってきますしね・・・(書籍の編集者も作者の一人だと言われれば、その通りだと思いますが)
メーカーによっては、営業・販売担当者が出版で言う編集者としてのチェック機能を持つ所もありますが…業界で普遍的なものではないようです。
最近の流れの一つとして、ハリウッド映画のように、「プロデューサー」という役割を立てて、その担当者が強力な権限で全てを仕切る、という手法も出てきています。プロデューサー役の苦労は並大抵ではありませんが、有能な人を立てれば、ほぼコンスタントに十分な商品力のある作品を定期リリースしてくれます。
ボブマスターさんが書いているように、ゲーム制作現場はいろいろな役割の人が複数絡むので、そういう意味では小説などの出版業界よりも、映画業界の手法を真似た方が良いのかも知れませんが…ハリウッド映画みたいに、みんなハンコで押したような商品ばっかりになられちゃうと、これまた困りますなw
勘違いされとるようですが、わたしはライターの立場で言っとるわけではございません。
営業を経験し、ディレクターを経験し、プロデューサーを経験し、マーケッターとして動いた経験から言っとるのです。
1.5MBのシナリオにしようとしているのを、1.4MB、1.3MBにすることは可能です。そういうところから始めていかないとボリュームインフレーションはおさまらないし、ソフトハウスの首を閉め続けると言っとるのです。